前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)
前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)とは?
小動物整形外科領域において、前十字靭帯断裂は膝関節疾患の中でも代表的な病態の一つであり、大型犬から小型犬まで犬種を問わず比較的よく見られます。前十字靭帯は膝の関節を固定するのに重要な靭帯の一つであり、この靭帯が切れることで膝関節の不安定化が起こり、痛みはもちろんのことさまざまな運動障害が起こります。部分的な断裂の場合、見逃されることもあり、慢性化すると関節炎や半月板損傷、変性性関節症などを二次的に誘発する危険性があります。
また、前十字靭帯断裂の疫学的特徴としては以下のようなことが分かっています。
- 発症は年齢とともに上昇し、6~10歳の間に起こる。
- 前十字靭帯断裂を起こした犬の37%で反対側の断裂も起こる(平均17ヶ月後)

その他、以下のような要因を持っている場合は前十字靭帯断裂を起こすリスクは高まるとされています
- O脚(がにまた)
- 肥満
- 顆間窩が狭い
- 膝蓋骨内方脱臼(Grade2以上)である
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 免疫介在性の病気がある(関節炎とか) etc…
飼い主さんが気付く異変(臨床症状)
- 散歩途中で後ろ足を挙げて歩くようになった
- 外で運動していて、方向転換したときにキャンとないて後ろ足を挙げるようになった
疫学的特徴にもあるように、多くの症例は交通事故などの明らかな原因を伴わず、さまざまな程度の跛行がみられます(全く足が着かない場合から、ほとんど気がつかない程度のものまで)。後ろ足を着地できない疾患は他にもいくつかあるので、その疾患との鑑別が必要になってきます。
診断と治療法
上記臨床症状に加えて、身体検査、レントゲン検査、関節液検査などにより診断します。
治療法は内科的治療法と外科的治療法がありますが、基本的には外科的治療をお勧めしています。
10kg以下の小型犬では内科的治療で症状の改善(跛行の消失)がみられ、一見正常に見えることが多いようですが、関節の不安定性は残存し、しばしば二次性の変性性関節症を発症します。
また、部分断裂や前十字靭帯断裂を見逃され、慢性化したものでは診断がより困難であり、そのまま放置されたり、内科的治療を継続した場合は完全断裂(部分断裂発症から1年以内)や半月板損傷を高率で誘発することがわかっています。
したがって、臨床症状がみられる部分断裂の場合は外科的治療の適応となります。
外科的治療法としてはいくつかありますが、手術の目的はいずれも断裂した靭帯の再建し症状を改善することではなく、手術によって痛みを軽減し、変形性関節症の進行を遅らせるために行う手術です。
下記のような手術法があります。
- 関節内制動術
- 関節外制動術
- 矯正骨切り術(TPLO)
状況によって術式の選択は異なりますが、1と2の併用(特に小型犬)または、3の矯正骨切り術(特に大型犬)を実施することが多いように思います。
また、本疾患では半月板損傷を併発する場合が多いので(特に慢性経過したものほどリスクは高いようです。また大型犬の約75% は半月板損傷をしていたという報告もあります)、損傷した半月板の除去を行うこともあります。
そのほか、膝蓋骨内方脱臼を併発している例も多いので、その場合は、前十字靭帯断裂の手術と同時に、膝蓋骨内方脱臼に対する手術も実施します。


